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東京地方裁判所 平成7年(特わ)3160号 判決 1996年3月25日

本籍

埼玉県入間郡三芳町大字藤久保三一六番地

住居

東京都荒川区西日暮里五丁目一八番一四号

M・Tメモリアルビル五〇三号室

会社役員

上野隆義

昭和一一年一月一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官成川洋司、弁護人福島昭宏各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年四月及び罰金四二〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないとは、金三〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、東京都荒川区西日暮里五丁目二番一五-二〇二号(平成三年六月一四日以前は東京都荒川区西日暮里四丁目五番一八-二〇二号)に居住し、東京都荒川区西日暮里五丁目三三番二号小宮ビル三階ほか三か所において「白樺ドレス」等の名称でダンス用ドレスのレンタル及び販売並びにダンス教室を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成二年分の実際総所得金額が八七七二万一四〇円(別紙1の所得金額総括表及び修正貸借対照表参照)であったにもかかわらず、平成三年三月一五日、東京都荒川区西日暮里六丁目七番二号所轄荒川税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が九五四万五二四四円で、これに対する所得税額が一五二万九一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成八年押第二七号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額三九二三万六〇〇〇円と右申告税額との差額三七七〇万六九〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書(1)参照)を免れ

第二  平成三年分の実際総所得金額が一億六三八三万一八〇五円(別紙2の所得金額総括表及び修正貸借対照表参照)であったにもかかわらず、平成四年三月一六日、前記荒川税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が九七〇万三〇〇七円で、これに対する所得税額が一五〇万六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成八年押第二七号の3)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額七七一六万五五〇〇円と右申告税額との差額七五六六万四九〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書(2)参照)を免れ

第三  平成四年分の実際総所得金額が一億一七五三万三三〇八円(別紙3の所得金額総括表及び修正貸借対照表参照)であったにもかかわらず、平成五年三月一二日、前記荒川税務署において、同税務署長に対し、その総所得金額が一五二一万四二五七円で、これに対する所得税額が三五三万三二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(平成八年押第二七号の5)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額五四〇五万一五〇〇円と右申告税額との差額五〇五一万八三〇〇円(別紙4のほ脱税額計算書(3)参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一  第一回公判調書中の被告人の供述部分

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書五通

一  被告人作成の申述書

一  上野とし子の大蔵事務官に対する質問てん末書三通

一  伊藤登志美の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  安井信一の大蔵事務官に対する質問てん末書

一  大蔵事務官作成の現金調査書、普通預金調査書、定期積金調査書、定期預金調査書、郵便貯金調査書、有価証券調査書、棚卸資産調査書、レンタル商品調査書、前払金調査書、建物調査書、建物附属設備調査書、備品調査書、買掛金調査書、借入金調査書、前受金調査書、預り金調査書、過払源泉所得税調査書、未払消費税調査書、元入金調査書、事業主貸調査書、事業主借調査書、青色申告控除調査書、事業専従者控除調査書及び領置てん末書

一  検察官作成の棚卸資産、元入金、事業主貸、荒川税務署の所在地についての各捜査報告書

一  荒川税務署長作成の証明書及び証拠品提出書

判示第一の事実につき

一  検察事務官作成の現金についての捜査報告書

一  押収してある平成二年分の所得税の確定申告書一袋(平成八年押第二七号の1)

一  押収してある平成二年分の所得税青色申告決算書一袋(平成八年押第二七号の2)

判示第二の事実につき

一  押収してある平成三年分の所得税の確定申告書一袋(平成八年押第二七号の3)

一  押収してある平成三年分の所得税青色申告決算書一袋(平成八年押第二七号の4)

判示第三の事実につき

一  検察事務官作成の不動産所得についての捜査報告書

一  押収してある平成四年分の所得税の確定申告書一袋(平成八年押第二七号の5)

一  押収してある平成四年分の所得税青色申告決算書一袋(平成八年押第二七号の6)

(適用法令)

〔ただし、刑法は、いずれも、平成七年法律第九一号による改正前のものを指す〕

罰条 判示各所為につき、いずれも所得税法二三八条一項(ただし、判示第一事実の罰金額の寡額につき、刑法六条、一〇条、平成三年法律第三一号による改正前の罰金等臨時措置法二条一項)、二項(情状による)

刑種の選択 いずれも、懲役刑と罰金刑を併科

労役場の留置 刑法一八条

併合罪の処理 懲役刑につき、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重)

罰金刑につき、刑法四五条前段、四八条二項(判示各罪の罰金額を合算)

刑の執行猶予 刑法二五条一項(懲役刑につき)

訴訟費用の負担 刑事訴訟法一八一条一項本文

(量刑の事情)

本件は、ダンス教室の店などを経営していた被告人が、同事業に関連したダンス用のモダンドレス、ラテンドレスなどの販売、同レンタル業を始め、これが順調に伸展してヒットしたことを契機に、さらなる人生の成功者を夢みて、同事業を拡大発展させるための事業資金あるいは、自らの老後資金蓄財などを目的として、その実際所得金額の一部につき、自ら売上金等の除外を指示し、売上メモの一部を廃棄するなどして、各過少申告により実際総所得金額を少なくみせかけ、合計約一億六三〇〇万円余の所得税を脱税したという事案であり、そのほ脱率は通算約九六・一パーセントに達している。

被告人の右犯行の動機、被告人の右脱税額は、現在の平均的な我が国一般勤労者の所得からすると、その一生を費やして形成できるか疑問無しとは言えない程の額であり、かかる高額を自分勝手な成功者の論理で欲しいままに仮名、借名の定期預金やドレスの在庫等にあてるなどして資産を隠匿していた犯行態様、右脱税額の大きさ、ほ脱率の高さに照らすと、犯情は悪質であり、同種犯罪防止のための一般予防の見地からして、その刑事責任を軽く考えることはできず、厳しい処断を免れないというべきである。

ただ、被告人は、前科前歴が無く、刻苦して独力で右事業を独創的に発展させたなど本件犯行以外では、自らのダンス教室や前記レンタル業などを通じて社交ダンスの発展に情熱を傾倒し、それなりに同業界の発展に寄与しようとした姿勢が窺える上、現在では、有限会社白樺ドレスを設立して、同会社の中心人物として経理体制の改善に努めながら、本件犯行発覚後は、本件三年度分についての本税、延滞税及び重加算税のすべてを完納しているほか、従来の自己の税金に対する自己中心的な態度を深く反省し、今後は病後の妻をいたわりつつ、地道に仕事を継続し、正しい納税に努める旨その心情を吐露するなど改悛の情が特別に顕著であると認めることができる。

これら被告人のために有利に斟酌すべき一切の事情を熟慮すると、今回に限り主文の各刑にとどめ、社会内で、一層の更生の道を歩ませるを相当と思料した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 懲役一年六月及び罰金五〇〇〇万円)

(裁判官 大谷吉史)

別紙1

所得金額総括表

<省略>

修正貸借対照表

<省略>

別紙2

所得金額総括表

<省略>

修正貸借対照表

<省略>

別紙3

所得金額総括表

<省略>

修正貸借対照表

<省略>

別紙4

ほ脱税額計算書

上野隆義

(1)平成2年分

<省略>

(2)平成3年分

<省略>

(3)平成4年分

<省略>

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